- ホーム
- 読みもの
- WPIの研究を支える人たち
- スタッフの手厚いサポートが支える、オープンでフラットな研究環境(WPI-QUP)
スタッフの手厚いサポートが支える、オープンでフラットな研究環境(WPI-QUP)
2026年10月01日掲載
スタッフの手厚いサポートが支える、オープンでフラットな研究環境(WPI-QUP)
茨城県つくば市にはWPIの拠点が3つあります。そのひとつが、高エネルギー加速器研究機構(KEK)内に設置されたWPI-QUP(量子場計測システム国際拠点)です。開かれた研究環境で知られる同拠点では、国内外から集まった研究者が日々活発に交流しながら、協働しています。この温かな雰囲気を支えているのが、研究者一人一人に寄り添い、日々のニーズに応えるスタッフの献身的なサポートです。外国人研究者たちが研究に専念できる環境は、どのように築かれてきたのでしょうか。その舞台裏に迫ります。
※ 所属及び役職は、インタビュー実施当時(2025年12月)のものです。
QUP事務室所属で特別事務専門職の小林信枝さん(左)と、QUP戦略室所属で特別技術専門職の池野邉典子さん(右)
【 研究者と事務のスペシャリストが一体となって取り組む 】
茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)を母体とするWPI-QUP(量子場計測システム国際拠点)は、宇宙物理や素粒子物理、計測科学などを融合し、量子場を計測する新しいシステムの発明・開発をめざす研究拠点です。2021年12月にWPI拠点に採択されて以来、研究者と事務のスペシャリストたちが一体となって築き上げてきた「オープンな雰囲気」が、この拠点の魅力となっています。この環境づくりに大きく貢献しているのが、2022年4月から勤務する池野邉典子さんと小林信枝さんです。
WPI-QUPの設立にともない広報担当として着任した池野邉さんは、以前はNIMS(物質・材料研究機構)でまったく異なる業務に携わっていました。WPI-QUPでの広報業務は新たな挑戦でしたが、覚悟を決めた池野邉さんは、準備にあたって他のWPI拠点の広報担当者や事務局スタッフを訪れ、研究者と円滑にコミュニケーションする方法を尋ねたといいます。
「何よりも大事なのは、まず研究者との信頼関係を築くことだと学びました。私自身、この拠点で経験を積み、成長してきたと感じます。研究者が困ったときに相談できるような存在になりたいと思っています」と、池野邉さんは言います。
小林さんもWPI-QUP設立時からのメンバーです。WPI-MANA(ナノアーキテクトニクス材料研究センター)とWPI-IIIS(国際統合睡眠医科学研究機構)での勤務経験もあり、つくば市にある3つのWPI拠点全てで働いたことのある数少ない存在です。WPI-QUPでは特別事務専門職として秘書業務をメインに、国際会議のロジスティクス、安全輸出管理審査、ビザ申請、航空券手配など、研究者の活動を幅広く支えています。
富士実験棟にある希釈冷凍機。超伝導転移端センサーの開発に必要な極低温環境を実現するもので、WPI-QUPに欠かせない装置
【 つくば名物のお菓子で研究者同士の交流を促す 】
WPI-QUPでは頻繁に国際会議を開催しており、池野邉さんと小林さんは会議の運営サポートにとどまらず、交流を促進し討論を活発化させるために、様々な工夫を重ねてきました。たとえば、過去3回開催した国際シンポジウム「QUPosium」では、レセプションディナーやランチにポスターセッションを組み合わせ、研究者の発表の機会を増やすこともありました。回を重ねるごとに内容は進化し、つくばの地域性や文化を意識したおもてなしも大きな特徴となっています。
2022年に開催された第1回「QUPosium」の様子
池野邉さんによれば、会議の休憩時間には、地元名物の和菓子などつくばの特産品を提供しているそうです。「おやつを楽しみながら自然と会話が広がって、異なる分野の研究者が自身の研究を紹介し合い、その後の継続的な交流が生まれることもあります」
スタッフたちもコーヒータイムをサポートし、研究者たちに混じって積極的に交流を促します。「誰かがぽつんと一人でいたり、他の人に話しかけるのをためらっていたりするようだったら、他の研究者に紹介するなど会話に加わるよう手助けをします」と、小林さんは微笑みます。こうした現場での交流を育む取り組みは、WPI-QUPのオープンでフラットな環境を形づくるうえで欠かせない要素となっています。
ある外国人研究者は、スタッフについて「英語が話せて、会議の運営にも慣れたスタッフがいるため、安心して国際会議の運営を任せられる」と語ります。またKEK内には大型の加速器など複数の研究施設があり、見学が可能であることも、海外から訪れる研究者には大きな魅力となっています。
2025年12月に開催された国際会議でのコーヒーブレイク。日本のお菓子やスナックをつまみながら、参加者たちの話の輪が広がる
【 来日1日目から包括的なサポート体制 】
外国人研究者が全体の4割を占めるため、WPI-QUPでは英語が共通言語です。来日した研究者は到着早々、市役所での住民登録、銀行口座の開設、携帯電話の契約など、必要な手続きが山のようにありますが、そうした場合もスタッフがきめ細かくサポートします。来日前に研究者に手続きの詳細なスケジュールを送り、やるべきことを明確化し、日本での生活が支障なく始められるよう支えています。
さらにスタッフが気を配っているのが、日常的な声かけです。「研究者たちは頭の中が研究のことでいっぱいで、大きなストレスを抱えていることも少なくありません。雑談を通して彼らがリラックスできるよう心がけています」と小林さん。
サイエンスカフェ「エイチ・バー(ħ)」(量子力学のプランク定数にちなんでつけられた)も、池野邉さんと小林さんが立ち上げたイベントの一つ。一般向けのイベントで講演を予定している研究者が、スタッフを相手にリハーサルを行い、率直なフィードバックを受ける場となっています。「最初から数式が出てくると圧倒されて、興味が失われてしまう」という指摘が出ることもあるそうです。フィードバックを受けた研究者はスライドを修正し、講演スキルの向上につなげることができます。科学のバックグラウンドをもたない池野邉さんは「理解できないことが時には強みになります。一般の聴衆と同じ目線で指摘できますから」と話します。
池野邉さんは「エイチ・バー」のナビゲーターとして、研究者にフィードバックをするよう参加者へ働きかけている
またスタッフの中には、田植えや近くの筑波山神社のお祭りなど、日本の文化に触れる機会を率先して紹介する人もいます。小林さんによれば、「日本語を積極的に学ぼうとしたり、日本文化に関心をもってくれたりする外国人研究者もいて、応援したくなる」と言います。
手厚くサポートする一方、家族のような関係を保ちたいからこそ、ルールについては厳しく接します。なかには時間を守れなかったり、書類の提出が遅れたりする研究者もいますが、ルールを守れないと研究者のキャリアにも影響する可能性があるからこそ、守るべきルールをきちんと示します。研究者をサポートするには、この優しさと厳しさの両方が不可欠といえます。
重要なのは研究者とのコミュニケーションだと、池野邉さんは強調します。たとえばニュース原稿を作成するにあたって、わかりやすさを重視する広報と、正確性を求める研究者で意見がぶつかることもあります。「こうした場合は日を改めて、各当事者にとって譲れないポイントを話し合う時間を設けます。妥協点ではなく、着地点を見つけることが大事です」
2人が身に着けているのは、一体感を醸成するために設立時に全員に配布されたジャンパー
袖には池野邉さんが揮毫した「量子場」の文字がプリントされている
【 アンダーワンルーフで研究の悩みを気軽に相談 】
こうした細やかで包括的なサポートが、外国人研究者を生活面の不安から解放し、研究に専念できる土台を支えています。2025年10月には新施設への移転が完了し、WPIのテーマである「アンダーワンルーフ(一つ屋根の下で)」のコンセプトを体現する環境が整いました。異なる分野の研究者が共有スペースで共に働き、つながりを深めているWPI-QUPでは、シンポジウムや一般向け講演など、アウトリーチ活動に参加するメンバーが多いというのもうなずけます。
「英語が日常の共通言語になっているため、外国の研究者にとっては安心して研究に取り組める環境だと思います」と、池野邉さん。スタッフは研究者の良き相談相手となり、子どもの誕生を一緒に喜んだり、家族に関する悩みを聞いたりもするそうです。
研究に対する包括的な支援と、研究者とスタッフの緊密な協力関係。この2つの柱こそが、WPI-QUPを科学的発見のための真に卓越した研究拠点へと押し上げています。
プロフィール
池野邉典子さん
WPI-QUP戦略室 特別技術専門職
NIMSで7年間秘書業務を務め、2022年より現職。ウェブや動画の制作、SNSの運用、国際会議やワークショップの運営、ニュース原稿の作成など広報全般を担当。
小林信枝さん
WPI-QUP事務室 特別事務専門職
WPI-MANAとWPI-IIISでの勤務を経て、2022年より現職。国際会議のロジスティクスや外国人研究者のビザの申請や航空券の手配、安全輸出管理の手続きサポートなど幅広い事務業務を担う。