高エネルギー加速器研究機構(KEK) 量子場計測システム国際拠点WPI-QUP

新しい「眼」を人類にもたらし、この世界の成り立ちを見つめる

拠点ロゴ
万物の根源「量子場」。WPI-QUPは、今までにない手段で量子場を計測する新システムを開発します。そして、この世界そのものの本質に迫るとともに、他分野や社会への展開を目指します。

研究の目標

新しい量子場計測システムを発明・開発する

「量子場」とは、素粒子や準粒子とそれに伴う物理量を持つ時空そのもの、「物体と時空の根源」といえます。これを計測することは、極小の素粒子から極大の宇宙に至るまでの、世界に存在するすべての事象の本質を見つめることでもあります。WPI-QUPの使命は、宇宙物理、素粒子物理、物性物理、計測科学、システム科学を融合し、量子場を計測するシステムを発明・開発することです。これまでにない発想で作られたシステムは、新しい視点を宇宙観測や素粒子実験にもたらし、時空と物質の真の姿に迫ることができるに違いありません。

拠点長:羽澄 昌史

(拠点長からのメッセージ)

マルセル・プルーストは「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい眼で見ることなのだ。」と述べています。WPI-QUPでは、まさにこの精神で、新しい「眼」を人類にもたらし、この美しい世界の成り立ち(時空と物質の真の姿)を見つめていきたいと思っています。WPI-QUPを、異なる分野の研究者の出会いの場、アイデアがスパークする場、研究者のみなさんの夢をかなえる場にしたいと思います。そして、それが人類の幸福の礎になることが私の夢です。

(プロフィール)

東京大学大学院博士課程修了、博士(理学)取得。大阪大学理学部助手、高エネルギー加速器研究機構(KEK)助教授を経て、2007年より同機構教授を務める。2014年より東京大学国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構(WPI-Kavli IPMU)特任教授、2020年より宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)特任教授を併任。専門は素粒子物理および実験的宇宙論。2007年、B 中間子における CP 対称性の破れの発見により第4回日本学術振興会賞受賞。2008年に LiteBIRD 衛星計画を提唱し、現在計画の世界代表を務める。

特徴・研究成果

研究のための「手段」を研究する

量子場計測システムという、研究のための「手段」を発明・開発することを目的に、測定原理の発明から、測定を実現するシステムの開発と観測プロジェクトの実行までを、様々な分野を融合しつつ一貫して行っていることが特徴です。いわば、目標に向かって進むというよりも、進むための乗り物を作るために、様々な分野の研究者が協力し合っているというイメージです。新しい乗り物を使えば、今まで行けなかった様々な場所に簡単に行けるようになります。このため、物理学にとどまらないほかの分野や、社会への展開も可能と考えています。

新しい超伝導センサーの開発〜ライトバード衛星への 実装のために

ライトバードはJAXAが2028年度の打上げを目指す衛星計画で、ビッグバン以前の宇宙の観測を目的とします。WPI-QUP拠点長が発案し代表を務めています。WPI-QUPはライトバードの「眼」となる超伝導センサーの開発を手掛けます。宇宙空間という地上にはない最高の観測環境を生かすには、センサーのノイズが十分小さくないといけません。WPI-QUPでは、ライトバードの要求を満たすセンサーの初期開発に成功しました。


LiteBIRD 衛星、超伝導センサーアレイ、微小光学レンズと超伝導センサーの概念図

放射線損傷からの回復機構を持つ「CIGS 半導体検出器」

太陽電池として開発されてきたCu(In,Ga)Se2(CIGS)半導体は、放射線損傷で発生した欠陥を内包するイオンが埋めることによる自己回復機構を持つことが知られており、高放射線環境下で動作する粒子検出器や、カメラとしての利用に着目しました。
我々は世界初のCIGS粒子検出器を作り、単Xeイオン(400 MeV/u, 132Xe54+)の検出に成功しました。また、およそ109個/mm2のXeイオン照射による放射線損傷で66%まで低下した出力が、130℃で5時間の熱処理で86%まで回復することを確認し、回復機構を持つ半導体粒子検出器実現の大きなマイルストーンを達成しました。


左)試作したCIGS検出器。 右)Xe イオン照射によるCIGS検出器の出力減少(照射前を1とした相対比)と、熱処理による出力の回復。