京都大学 物質-細胞統合システム拠点WPI-iCeMS

物質科学と細胞生物学の統合へ

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細胞機能の理解に必要な化学物質や、細胞機能の操作に必要な化学物質を作製し、これらを用いて生命の謎に迫り、さらには、細胞機能に触発された新たな機能材料を創生することを目指します。

研究の目標

細胞機能を化学で理解し、物質により再現、操作することは可能か

細胞は、数多くの化学物質を自己組織化し、協同的に相互作用させることで生命活動を維持しています。それらの化学物質の挙動は時空間的に常に変化しています。これを化学で理解するには、ナノメートル領域ではなく、もう少し大きなメゾスコピック領域で働く分子に目を向けることが必要です。このために、様々な可視化技術やモデル化技術、そして複雑な細胞の営みを解析する物理や化学の手法を開発します。さらに、細胞機能を物質で再現することにも挑戦します。細胞機能が理解できているなら、物質による細胞機能の再現は可能なはずです。理解と創造により研究を推進します。

拠点長:上杉 志成

(拠点長からのメッセージ)

WPI-iCeMSでは、「化学物質の自己集合」が生命と化学物質の境界を形成すると考えています。細胞生物学と化学の有機的な融合によって、生命と物質の境界にある細胞内自己集合体の理解(学理)と、それらに触発された機能性自己集合材料によるイノベーション(応用)の両方に挑戦し、さまざまなグローバルな課題の解決を目指します。そのために、自己集合に関する多岐にわたる研究者をWPI-iCeMSに結集させ、ダイバーシティーとフォーカスを両立させたいと考えています。

(プロフィール)

1967年、大阪府生まれ。1995年、京都大学大学院薬学研究科博士後期課程を修了。その後ハーバード大学研究員、米国ベイラー医科大学助教授および准教授を経て2005年に京都大学化学研究所教授。2007年よりWPI-iCeMS教授を兼任、2013年より副拠点長を経て2023年より拠点長。

特徴・研究成果

国際的かつ学際的な研究環境

WPI-iCeMSでは、①異分野による融合研究に適した、分野の垣根を超えた活発な議論や交流が生まれるような環境を醸成するため、研究室ごとの区切りのないオープンオフィスやオープンラボに加え、異分野の研究者がともに使える共用実験機器などを整備しています。日頃から研究者同士が顔を合わせることにより学際融合に関するアイディアが生まれやすい環境を整えています。また、②外国人研究者が研究に専念できる環境を整えるため、外国人研究者支援室を設置しています。ここでは、在留資格取得のための支援や就労に関する手続きのサポート、住まい探しや家族も含めた生活のサポートなどを行っています。さらには、③国際的かつ学際的な研究環境の実現に向けて、オンラインでの国際シンポジウムやセミナーを開催しています。④WPI-iCeMS内に設置された研究支援部門では、国際研究ネットワークの強化を図りながら、WPI-iCeMS内で生まれた研究成果を社会へ還元することを目指し、WPI-iCeMSの研究基盤を強化するための外部資金等の資金獲得や産学連携活動、学術交流などの人材交流を活性化するための取り組みを行うと同時に、国際的な頭脳循環に向けてのアウトリーチ活動や研究成果の国内外への発信に力を入れています。

最も詳細な解像度でゲノムDNAの3次元構造を導く技術

谷口雄一教授らの研究グループは、細胞内のゲノムDNAの3次元構造を、ヌクレオソームのレベルで決定する技術の詳細な実験マニュアルを公開しました。
ヌクレオソームは、様々な遺伝子をコードするゲノムDNAが、160~200塩基対ごとにヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きついて形成するゲノムDNAの構造単位です。従来、遺伝子領域に関わらず規則的にヌクレオソームが並んでいると考えられてきましたが、2019年に同グループは、遺伝子領域ごとにヌクレオソームの配列構造が異なっていることを発見しました。発生や分化などの際の遺伝子の発現が、その構造を基に制御されていることを示唆するものであり、様々な生命プロセスの発生起源を知るための重要な基盤技術として、世界的に大きく注目されています。


研究グループは、次世代ゲノムシークエンサーとスーパーコンピュータを用いてヌクレオソームの3次元的な位置や方向を明らかにする技術を開発しました
(© 高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

谷口雄一教授/主任研究者(2021年5月 Nature Protocols にて論文公開)参加

世界最⾼の⽔素分離性能を有する酸化グラフェン膜を開発

水素は脱炭素社会の実現に向けた新時代のエネルギーとして期待されていますが、大規模な水素供給を可能にするために、より効率的な水素の製造方法の確立が求められています。イーサン·シバニア教授らの研究グループは、湿度に弱いため水素の分離に向いていないと考えられていた酸化グラフェン(GO)膜に、正電荷を帯びたナノダイヤモンド(ND)を組み込むことで、最大の課題であった耐湿性を著しく向上させることに成功しました。本研究で開発したNDを含むGO水素分離膜は⽔素製造プロセスの効率化に加え、水素製造時に発生する⼆酸化炭素の⾼純度回収にもつながる可能性をもつため、⼆酸化炭素貯留(CCS)や資源活⽤(CCU)への応⽤も期待されます。


本研究で開発したNDを含むGO⽔素分離膜と既存⽔素分離膜のH2 透過率と H2/CO2 分離能
(右上にいくほど⾼い性能をもつことを⽰す。⾚丸下の数字は NDの含有量を⽰す。)

イーサン・シバニア教授/主任研究者(2021年12月 Nature Energy にて論文公開)

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