草の根サポートから組織的サポートへの展開。—— ハッピーの連鎖を作るために(上)
外国人研究者サポートは事務フローの構築から徐々に作り上げられていくため、種々の生活サポートに関して、当初は制度化されていない傾向にあります。まずは担当職員が業務外の行動として外国人の生活サポートを始め、やがて、それらを組織として行う形が整えられていきます。ここでは、東北大学AIMRの歴史を背景に、拠点設立当初に草の根的に外国人研究者生活サポートをしていた橋本圭一さん、生活サポートを組織的な業務として構築していった及川洋さんのお話を紹介します。
【取材・文:清水修、写真撮影:熱海俊一】
東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)
【 AIMR黎明期の草の根的な外国人生活サポート 】
橋本 拠点設立当初(2007年10月)から4年間、AIMRに在籍していました。設立当初の事務のメンバーは4人。まだ、WPIというものがよく分かってなかったのですが、拠点長(当時の山本嘉則AIMR機構長)から「拠点に採択された時の申請書に書いてあることをやれば良い」と言われ、手探りでいろいろと進めていきました。2007年度は日本人研究者1名、外国人研究者1名だけ雇用しましたが、2008年4月には日本人外国人合わせて一気に何十人かの研究者を雇用したので、英語で事務をやる必要も増していきました。職員みんなで英語の事務に徐々に慣れていったというかんじですね。
AIMRでは研究者を年俸制で採用するということになり、人事担当として採用が決定した研究者に最初にコンタクトを取るのが私の業務でした。当時、ポスドクの年俸は決まっていたのですが、助教は原則として大学の規定で算定した額で決定していました。ところが、欧米人は必ず年俸のネゴシエーションをしてくるんですね。こちらから提示した年俸額に対して必ず交渉してくる。いろいろと交渉をして、大体は額が確定するわけですが、たまに交渉決裂することもありました。
外国人研究者の事務手続のために英語の書類様式も作ったのですが、まだ、大学本部が英語様式だと対応できない状況だったので、ほとんどが実際に使うことはできませんでした。仕方なく当初は外国人研究者に内容を説明しながら日本語様式に書き込んでもらっていた記憶があります。
外国人研究者の生活サポートに関しては、当時、まだ組織の仕事としては行っていませんでした。大体は、事務室の非常勤職員や研究室の秘書さんなどが生活サポートの対応をしてくれていましたが、それですべてに対応できるわけではないので、採用時に私が関わった外国人研究者の生活サポートは勤務時間外に私がやることもありました。採用時から仲良くなった、ある外国人研究者から「自分は車を持っていないので、一緒に灯油を買いに行ってくれないか」と頼まれた時も、勤務時間終了後に一緒に買いに行きました。そのおかげで、普段あまり使わないkerosene(灯油)という英単語を覚えられましたが(笑)。そのように、当時は草の根レベルで生活サポートをやっていたわけです。
また、外国人研究者に関して外部からクレームが入る時は大体、事務部に連絡がきます。不動産屋さんから「住人(AIMRの外国人研究者)が騒音を出すので困っている」というクレームが入ったことがありました。大家さんも不動産屋さんも本人に直接、英語でクレームを言うのが困難な場合、事務部に連絡が来るわけです。これも当時は業務外の案件だったので、勤務時間後に外国人研究者に連絡して注意していました。
【 外国人サポート部署の設立。組織的サポートへ 】
及川 私がAIMRに着任したのが2010年。橋本さんとは1年間、在籍が重なっています。着任した頃はAIMR事務部全体が「英語をやろう。みんなで英語に習熟して業務に生かそう」という雰囲気で盛り上がっていました。 外国人研究者の生活サポートが草の根的な活動から組織的なサポート業務に移行していったきっかけは、AIMRの海外ジョイントリサーチセンター(以下JRC、当時の設置場所はAIMRの他、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学、中国科学院)が設立されたことですね。2014年頃の出来事です。
JRCにおいては、AIMRが研究者を現地雇用するようになり、現地雇用された研究者が1年のうち何ヶ月かは仙台に滞在していました。当然、彼らの継続的な生活サポートが必要だということになり、それまでも外国人研究者への組織的な生活支援の必要性が検討されてきたこともあり、International Affairs Center(AIMRの上位組織である高等研究機構の外国人研究者サポート部署。以下、IAC)が設立されました。
組織的な外国人研究者サポート体制が始まってからは、以下のような業務をやっています。
1.アライバルサポート
住居手配(寮など)、市役所での住民登録など、外国人研究者着任時に必要な各種の手続などのサポートです。必要なところに研究者と一緒に赴いて行います。
2.ショッピングツアー
外国人研究者に「欲しいもの」を挙げてもらい、何人かで「行きたいお店」のツアーを組みます。電気店、スーパー、家具店等に赴きます。
3.ハウジングサポート
引っ越したいという外国人研究者のために住居探しをします。今のところ、上司であるPIに保証人をお願いしていますが、本来ならば、大学としての「保証人肩代わりシステム」があることが望ましいと思っています。東北大学では留学生に関してはそのようなシステムがあるのですが、外国人研究者に関してはまだありません。
たとえば、宿舎に入る外国人研究者の場合、仙台に到着したら、まずは宿舎に連れて行きます。宿舎は何も備品がない状態なので、スーツケースを置いて、「じゃあ、買い物に行こうか」と言って、最低限必要なもの、布団や照明などの買い出しに一緒に行くわけです。事務的な手続ばかりでなく、そういうことも広義のアライバルサポートですね。
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2023年3月30日