広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点WPI-SKCM2

持続可能で豊かな未来のために、人工物質を研究開発する国際研究所

拠点ロゴ
WPI-SKCM2は、「キラルノット超物質」という新しい研究パラダイムを導入しながら、望ましい材料特性を持つ人工物質をデザインするとともに、エネルギー需要の増大や気候変動といった地球規模の課題解決に挑みます。

研究の目標

人工的なキラルノット超物質で自然の限界を超える

私たちは、例えばディスプレイ内の液晶などの実験可能な系を使って自然現象を再現し、自然界の最小構成要素から宇宙全体に至るまでの基本法則を探求します。基本粒子の特性を持つあらゆる物理場の結び目から結晶を作ったり、自然界に存在する物質に類似した人工物質を作ったりしながら、材料を計画的に作り出します。水引のように物理場と分子を結んだり編み込んだりすることで、自然の限界を超えた新しい物理的挙動や望ましい性質を可能にします。例えば、超断熱性を持つ超物質を開発すれば、冷暖房で消費されるエネルギーの削減に寄与できるかもしれません。

拠点長:イワン スマリュク

(拠点長からのメッセージ)

私たちは、「結び目(ノット)をつないで持続可能な世界を構築する」というスローガンを掲げ、キラルノット超物質に関する高度な基礎研究を行い、科学的知識の幅を広げるだけでなく、持続可能な未来の実現に貢献するというビジョンを掲げています。WPI-SKCM2は、自然界の構成要素や人工類似体を開発することで、私たちを取り巻く世界をより深く理解し、自然界のシステムの限界を克服することを使命としています。また、日本や世界の大学院教育改革のための試行の場を作り、若い才能をグローバルに繋いでいきます。

(プロフィール)

自然界に存在しない人工物質の開発において、世界をリードする物理学者である。エネルギー需要の増加などの難題解決を目指している。ベッセル賞、NASA iTech賞、グレン・ブラウン賞、国際液晶学会Mid-Career賞、アメリカ物理学会キャリア賞、米国ホワイトハウス科学技術局大統領アーリーキャリア賞など、受賞多数。アメリカ物理学会、国際光工学会、およびアメリカ光学会のフェロー。

特徴・研究成果

トポロジー×キラリティ:分野や規模を超えた相互連携

WPI-SKCM2は、物理場における結び目を、自由に設計可能な人工物質の構成要素として開発する世界唯一の研究機関であり、「キラルノット超物質」という新しいパラダイムを導入します。この過程では、分野や規模を超えて、数学的結び目理論とキラリティに関する知識を掛け合わせ発展させます。そして、自由に設計可能な人工粒子から、非常に珍しく技術的に有用な特性を持つ物質を作り、自然の限界を克服します。特に、省エネによる気候変動の緩和や持続可能な未来を実現するために必要な物理特性を持つ物質を優先的に開発します。

結び目構造をもつ渦による光導波の制御

特異的な渦線で構成される光軸パターンを形成することで、光の導波経路を制御できることを示した。光に対して外部から摂動を加えることで、光と物質の相互作用を変化させることができる。液晶分子で作った周期的な渦構造の中を光が通過すると、光が液晶分子と相互作用して発生する光ソリトンの導波経路が稲妻のような形に分岐する。高い複屈折率をもつ液晶を用いた場合、閉じた輪の形状や結び目形状の経路に光を誘導することができる。このような技術は、ビームステアリングや情報通信、バーチャルリアリティの実装および偽造防止への応用が見込まれる。また、宇宙論で提唱されており、観測が困難な欠陥である宇宙ひもによる光の屈折現象など、光と欠陥構造の相互作用の研究に役立つ。

液晶中に作製したメビウスの帯のようなトポロジー

様々な分野で研究されているトポロジカルソリトンのなかで、空間的に局在した、ソリトン構造と特異的欠陥の特徴を併せもつ例はまれである。そのような例として、twist型ドメインウォールが液晶分子で作った渦構造と一体となって自己組織化すると、折り畳まれた構造をもつ空間的に局在したトポロジカルオブジェクトが形成されることを見出した。形成された”メビウソン”の分子配向場のトポロジーは、メビウスの帯の表面形状に類似している。液晶に印加する電場を制御することで、メビウソンの回転・並進運動およびメビウソンがトポロジカルソリトンを貨物として運搬する機能を誘起できる。また、メビウソンの折り畳み構造を制御することで、情報をコード化できることを示した。