広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点WPI-SKCM2

持続可能で豊かな未来のために、人工物質を研究開発する国際研究所

拠点ロゴ
WPI-SKCM2は、「キラルノット超物質」という新しい研究パラダイムを導入しながら、望ましい材料特性を持つ人工物質をデザインするとともに、エネルギー需要の増大や気候変動といった地球規模の課題解決に挑みます。

研究の目標

人工的なキラルノット超物質で自然の限界を超える

私たちは、例えばディスプレイ内の液晶などの実験可能な系を使って自然現象を再現し、自然界の最小構成要素から宇宙全体に至るまでの基本法則を探求します。基本粒子の特性を持つあらゆる物理場の結び目から結晶を作ったり、自然界に存在する物質に類似した人工物質を作ったりしながら、材料を計画的に作り出します。水引のように物理場と分子を結んだり編み込んだりすることで、自然の限界を超えた新しい物理的挙動や望ましい性質を可能にします。例えば、超断熱性を持つ超物質を開発すれば、冷暖房で消費されるエネルギーの削減に寄与できるかもしれません。

拠点長代理:木村 昭夫

(拠点長代理からのメッセージ)

本拠点は、自然界や物質中に普遍的に現れる結び目構造(キラルノット)を中核概念とし、キラリティとトポロジーに基づく新しい物質・機能の創出を目指す国際研究拠点です。物理・化学・数学が連携し、ミクロな量子状態から分子・ネットワーク構造、さらにはマクロな物性や機能へとつながる階層的理解を進めてきました。
昨年10月より、拠点長代理として拠点運営を担っております。現在は、結び目構造に内在する幾何学的・トポロジカル特性を「可視化・定量化」し、それをもとに「設計し、作り、機能を生み出す」研究循環を拠点全体で実装するフラグシッププロジェクトの構築を進めています。研究体制の安定化と国際連携の強化を図りながら、非平衡系やメタマテリアルへの展開、さらには社会実装も視野に入れた戦略的マネジメントを通じて、持続可能社会に資する新たな学術価値の創出に取り組んでまいります。

(プロフィール)

広島大学大学院先進理工系科学研究科 教授。専門は物性物理学。放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)およびスピン分解ARPESを中心に、トポロジカル物質や磁性材料における電子状態・量子幾何構造の研究を行っている。
これまでに国内外の研究者と連携し、多数の研究成果を国際学術誌に発表してきた。WPI拠点の立ち上げ当初からPIとして参画し、研究戦略の立案、人事・評価制度の整備など、拠点運営にも継続的に関与している。外部資金を活用した研究推進や学術審査に関する経験も有しており、研究と運営の両面から拠点全体を俯瞰したマネジメントを担っている。

特徴・研究成果

トポロジー×キラリティ:分野や規模を超えた相互連携

WPI-SKCM2は、物理場における結び目を、自由に設計可能な人工物質の構成要素として開発する世界唯一の研究機関であり、「キラルノット超物質」という新しいパラダイムを導入します。この過程では、分野や規模を超えて、数学的結び目理論とキラリティに関する知識を掛け合わせ発展させます。そして、自由に設計可能な人工粒子から、非常に珍しく技術的に有用な特性を持つ物質を作り、自然の限界を克服します。特に、省エネによる気候変動の緩和や持続可能な未来を実現するために必要な物理特性を持つ物質を優先的に開発します。

結び目構造をもつ渦による光導波の制御

特異的な渦線で構成される光軸パターンを形成することで、光の導波経路を制御できることを示した。光に対して外部から摂動を加えることで、光と物質の相互作用を変化させることができる。液晶分子で作った周期的な渦構造の中を光が通過すると、光が液晶分子と相互作用して発生する光ソリトンの導波経路が稲妻のような形に分岐する。高い複屈折率をもつ液晶を用いた場合、閉じた輪の形状や結び目形状の経路に光を誘導することができる。このような技術は、ビームステアリングや情報通信、バーチャルリアリティの実装および偽造防止への応用が見込まれる。また、宇宙論で提唱されており、観測が困難な欠陥である宇宙ひもによる光の屈折現象など、光と欠陥構造の相互作用の研究に役立つ。

液晶中に作製したメビウスの帯のようなトポロジー

様々な分野で研究されているトポロジカルソリトンのなかで、空間的に局在した、ソリトン構造と特異的欠陥の特徴を併せもつ例はまれである。そのような例として、twist型ドメインウォールが液晶分子で作った渦構造と一体となって自己組織化すると、折り畳まれた構造をもつ空間的に局在したトポロジカルオブジェクトが形成されることを見出した。形成された”メビウソン”の分子配向場のトポロジーは、メビウスの帯の表面形状に類似している。液晶に印加する電場を制御することで、メビウソンの回転・並進運動およびメビウソンがトポロジカルソリトンを貨物として運搬する機能を誘起できる。また、メビウソンの折り畳み構造を制御することで、情報をコード化できることを示した。