大阪大学 ヒューマン・メタバース疾患研究拠点WPI-PRIMe

人類の壮大な目標「すべての病気の克服」に挑む

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新たな科学分野「ヒューマン・メタバース疾患学」を創成し、⼀⼈ひとりの体内で病気が発症するプロセスを包括的・連続的に理解することで予防や治療につなげ、⼈類の健やかで持続可能な社会の実現に貢献します。

研究の目標

新たな科学分野「ヒューマン・メタバース疾患学」の創成

⼈間の体内器官で起こっている⽣命現象・病的プロセスを仮想空間内で再現した⼈のデジタルツイン(バイオデジタルツイン)を構築します。このバイオデジタルツインを⽤いて、ヒト疾患メカニズムの解明と発症・進⾏・治療応答性の予測、個別化予防法や根治的な治療法の開発を⽬指す新しい科学分野「ヒューマン・メタバース疾患学」を創成します。
また、バイオデジタルツインを格納したヒューマン・メタバースを世界中の研究者・医療関係者が共有できる情報空間プラットフォームに発展させ、多様な研究者が常に交じり合って融合研究を⾏う研究環境を整備します。ヒューマン・メタバース疾患学を担う若⼿⼈材の育成にも取り組みます。

拠点長:⻄⽥ 幸⼆

(拠点長からのメッセージ)

これまでの医学は、遺伝因子のみ、または環境因子のみで発症する因果が明快な病気について、その原因を解明してきました。結果として寿命が大幅に延長した反面、主に加齢に伴い発症する糖尿病や認知症、心不全のような病気が爆発的に増加し、現代人を脅かす状況となっています。これらの病気の多くは、遺伝因子と環境因子が時間をかけて複雑に相互作用し発症するため、従来のモデル動物を用いた要素還元的アプローチでは、その発症メカニズムの包括的理解は非常に困難です。私たちは、メタバースを用いた新たなアプローチで病気の原因解明に取り組み、すべての病気の克服に挑戦します。

(プロフィール)

博士(医学)。大阪大学医学部を卒業後、同大学附属病院等での臨床経験を経て米国のソーク研究所で研究を行う。帰国後は大阪大学、東北大学で教育・研究活動に従事し、2010年大阪大学大学院医学系研究科主任教授(脳神経感覚器外科学(眼科学))に着任、現在に至る。角膜・再生医療分野での実績が高く、iPS細胞から作製した角膜上皮を4人の患者に移植する世界初の臨床研究を行った(2019年~2020年)。文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門(2009年)、日本再生医療学会賞(2017年)、Asia Pacific Eye 100 (100 Most Influential Ophthalmologists) (2022年)などを受賞。

特徴・研究成果

バイオデジタルツインを用いた最先端研究を国際的に展開

本拠点には、「ヒトオルガノイド(ミニ臓器)⽣命医科学」と「情報・数理科学」分野の世界的研究者が集結し、両分野を世界で初めて本格的に融合させます。まずは多くの人が加齢とともに悩まされる眼、肝臓、脳、⼼臓、⽣殖器、骨の病気を対象に、バイオデジタルツインを構築し研究を進めます。こうした研究に関する、倫理的・法的・社会的な側面の諸課題(ELSI)にも取り組みます。また、国内2カ所、カナダ、メキシコのサテライトに加え、米国、アイルランド、フランスの研究機関とも連携し、ヒューマン・メタバース疾患学を国際的に展開します。

雄と雌のペアではなく、雄マウス2匹から赤ちゃんが誕生~iPS細胞を用いた世界初の成果~

PRIMeの研究グループではiPS細胞を用いて作製された様々なオルガノイド(ミニ臓器)を扱っており、その1つに卵巣があります。卵巣オルガノイドを用いることで、生物がどのように誕生するのか、といった発生生物学の分野が大きく発展します。 林克彦教授らは、世界で初めて雄の細胞だけを用いて赤ちゃんを誕生させることに成功しました。まず、雄マウスの尾の細胞から雌性染色体を含むiPS細胞を作製し機能的な卵子を形成したのち、この卵子と別の雄の精子と受精させることで、正常な赤ちゃんマウスが誕生することが示されたのです。この技術は、性染色体異常または一部の染色体数の変異による不妊症の治療の光となることが期待されています。

Nature (2023) DOI: 10.1038/s41586-023-05834-x

ACIDES:スクリーニング解析アルゴリズムの技術革新

タンパク質スクリーニングはタンパク質の創出や機能測定で使われる実験手法の一つで、PRIMeでも重要視している創薬や病気のメカニズム解明など、医療分野の実験において広く使用されている技術です。
根本孝裕特任准教授(常勤)らは、タンパク質スクリーニング実験を解析するアルゴリズムACIDESを開発しました。フランスの Institut de la Vision の研究グループと共同で、高分散なNGSノイズを記述する統計モデルとタンパク質スクリーニングの数理モデルを組み合わせることにより、今までにない精度でタンパク質スクリーニング実験の統計誤差決定を可能にしました。遺伝子治療法で使われるウイルスベクターの開発や、個別化医療ゲノム創薬など、今後様々な応用が期待されます。

Nature Communications (2023) DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-023-43967-9