東京大学 ニューロインテリジェンス国際研究機構WPI-IRCN

ヒトの知性はどのように生じるか脳神経発達の理解から迫る!

拠点ロゴ
本機構では、生命科学と情報科学をつなぐ新しい学問分野である、“ニューロインテリジェンス”を創成し、「ヒトの知性はどのように生じるか」という人類究極の問いに迫ります。発達障害を含む脳神経回路障害の克服、次世代型の人工知能の開発を通じて、より良い未来社会の創造に貢献します。

研究の目標

新たな学問分野『ニューロインテリジェンス』の創成へ

脳の働きを理解することは極めて複雑かつ困難な試みであり、宇宙の起源と並んで現代科学の最大のフロンティアともいえる研究領域です。ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)は、ヒトの知性の特徴である柔軟な神経回路の形成原理を明らかにし、その原理に基づくAIの開発を促進するとともに、神経回路発達の障害により引き起こされる精神疾患の克服にも貢献する新しい学問分野の創成に挑んでいます。また、コンピュータサイエンスから得られるフィードバックをヒトの知性の理解に還元し、「ヒトの知性はどのように生じるか?」という究極の問いに迫ろうとしています。

拠点長:ヘンシュ 貴雄

(拠点長からのメッセージ)

神経発達とその障害という観点から、ヒトの知性と人工知能を結びつける新しい学問分野の創設を目的に、ニューロインテリジェンス国際研究機構は2017年10月に発足しました。WPI-IRCNでは神経回路の発達過程の基本原理を究めるとともに、その異常によって生じる精神障害の発症メカニズムの解明を目指します。回路形成原理の理解は、これに基づく新しい人工知能の開発と革新的な計算手法に基づくヒト疾患の理解につながります。WPI-IRCNの唯一無二である生命科学・医学・数理科学・情報科学・言語学等の融合研究やこれを推進するコアファシリティーに是非ともご期待ください!

(プロフィール)

UCSFにて博士号を取得後、理研BSI発足に神経回路発達室長として関わり、グループディレクターを務め2006年に米国に戻る。ハーバード大学とボストン小児病院で教授を兼任しNIMH Silvio O. Conte Center for Basic Mental Health Researchを指揮。2017年よりWPI-IRCNの機構長に着任し、2019年にCIFAR Child & Brain Development Program共同ディレクターに就任。2016年MD Sackler Prize、平成18年度文部科学大臣表彰科学技術賞、日本神経科学学会奨励賞(塚原仲晃記念賞)及び米国同賞等多数受賞。

特徴・研究成果

国際連携のもとで脳の発達理論と計算論的科学の融合研究を推進

WPI-IRCNは発生/発達研究ユニット、ヒト/臨床研究ユニット、計算論的研究ユニット、技術開発ユニットの4つの連携研究ユニットで構成され、ニューロインテリジェンスの創成のため融合研究を推進しています。さらにWPI-IRCNでは、世界でもトップクラスの最新の技術や国際的な研究環境を整え、世界に類を見ないハイレベルな研究拠点を構築します。
国際的な共同研究ネットワークの構築
ボストン小児病院、マックスプランク研究所をはじめとする世界中の20ヶ所の研究組織との連携により研究ハブとしての機能を果たします。
研究力強化を実現するエコシステムの構築
機構内に整備した5つのコアファシリティーが求心力となり、融合研究をより効率的・効果的に進められるよう研究者のサポートを行います。学際的な仮説の構築や検証手段を可能にするプラットフォームを国内外の研究者に提供しています。
国内外の若手研究者の育成への取り組み
サイエンスサロンやリトリート、神経科学コンピュテーションコースを通じ、機構内の議論を活性化することで、次代を担う若手研究者を育成します。

脳は記憶を力で刻む ——シナプス力学伝達の発見

長期記憶が形成される際、大脳のシナプスにおいて樹状突起スパインが増大します。今回、WPI-IRCNの研究者達は、このスパインの動きが、筋肉収縮と同程度の力でシナプス前部を押し、伝達物質放出を増強する圧効果を持つことを見いだしました。シナプスにおける情報伝達様式には、化学物質の放出により信号を伝える化学伝達と、電気が通る電気伝達の二種類の様式が知られてきましたが、今回はスパイン増大と圧感覚(PREST: PREssure Sensation and Transduction)を介した力学的伝達という第三の様式を発見しました。この力学伝達は脳を理解し人工知能を開発する新しい手掛かりとなります。

Principal Investigator/Professor Haruo Kasai Ucar, H. et al. (2021) Nature, DOI: 10.1038/s41586-021-04125-7

脳活動の揺らぎを制御する

ヒトの意識は絶えず変化しており、その柔軟性こそが知性の鍵となっています。WPI-IRCNの渡部喬 光らは、そういった認知の柔軟性は脳神経活動全体が柔軟に変化できることによって生み出されているということを明らかにしてきました。さらに今回、脳全体の神経活動の揺らぎをほぼリアルタイムに追跡し、最適なタイミングで自動的に神経刺激を与えるシステムを開発することで、認知の柔軟性に関する前頭前野の新たな機能を同定しました。加えてヒトの認知の柔軟性をコントロールすることにも成功しました。この手法は、さまざまな知性を生み出す神経ダイナミクスの同定に活用できるほか、自閉スペクトラム症やADHDといった疾患の新規治療法の開発にも応用されることが期待されます。

Principal Investigator/Associate Professor Takamitsu Watanabe (2021) eLife, DOI: 10.7554/eLife.69079

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