慶應義塾大学 ヒト生物学‐微生物叢‐量子計算研究センターWPI-Bio2Q

ヒト生物学-微生物叢-量子計算の研究融合から健康長寿へ

拠点ロゴ
ヒトの健康は多臓器が連動して機能することで維持されています。本拠点は様々な疾患や発達・老化に関係する多臓器解析データ、微生物叢データを収集し、健康の分子基盤の理解を深化させる新しい生命科学を展開します。

研究の目標

生体恒常性の制御機構の解明を目指して

ヒトが如何にして外部環境情報を処理し、細胞/臓器間が階層ごとに連動しながらシグナルを分散・統合・制御し恒常性を維持しているのかを理解します。これまでヒト⽣体において⼤きなブラックボックスとして残されていたマイクロバイオームという重要な因⼦を加味しながら、粘膜上⽪・免疫・神経・代謝系などによって生体恒常性がどのように統御されているかという問いに継続してチャレンジします。また、超マルチオミクスデータをAI及び量⼦計算を用いて解析し、ヒト表現型の背後に隠れた未知の多臓器連関経路を開拓します。

拠点長:本田 賢也

(拠点長からのメッセージ)

WPI-Bio2Q拠点は、日本で初めてのマイクロバイオーム研究拠点です。マイクロバイオームとヒトとの相互作用を分子レベルで明らかにしていきます。この複雑性を理解するため私たちは従来の生物学的手法と共に量子コンピューター技術を用います。将来的には現在治療困難な疾患の新しい治療法の開発につなげたい。研究者にとって魅力的で、世界レベルで戦える組織にしたいと考えています。

(プロフィール)

2001年に京都大学にて博士号(医学)を取得後、東京大学医学部医学系研究科免疫学講座,助手、大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学准教授、東京大学医学部医学系研究科免疫学講座准教授を経て、2013年に理化学研究所統合生命医科学研究センター消化管恒常性研究チームリーダーに就任(継続中)。2014年に慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室教授に就任(継続中)。2022年より慶應義塾大学WPI-Bio2Q拠点長に就任(継続中)。Clarivate Highly Cited Researchersに選出される(2014年~2023年)。

特徴・研究成果

世界トップレベルの研究・技術群を一つの組織に統合

本拠点では、これまで明らかにされなかった恒常的臓器円環メカニズムを発⾒し検証するという新しいライフサイエンスの⽅法論を確⽴します。そのためにWPI-Bio2Qには微⽣物叢研究・オルガノイド技術・代謝物解析・神経回路解析・量⼦計算の世界的リーダーが集結し、ヒト多臓器多次元データ解析コア、多臓器円環機構解析コア、量⼦コンピューティングコアの3つの研究コアで最先端技術を活⽤しながら、コアを越えた融合研究を推進しています。また、医学研究科・薬学研究科・理⼯学研究科の3つの⼤学院研究科による横断連携英語プログラムの設⽴やコア間メンターリングによって、融合研究推進の中軸を担う⼈材の育成を目指していきます。

百寿者は多様な腸内ウイルス叢を持っており、代謝を調節し健康寿命を促進する可能性がある

腸内細菌叢の生態系は、全身の免疫機能や感染症に対する抵抗性に影響を及ぼすため、老化に関連した疾患の予防に関与している可能性がある。しかし、さまざまなライフステージにおけるマイクロバイオームのウイルス構成要素については、未解明のままである。Broad研究所のチームはWPI-Bio2Qメンバーと共同して、日本とサルデーニャの195人の既発表のメタゲノムを用いて、百寿者の腸内ウイルス叢の特徴を解析した。若年成人(18歳以上)および高齢者(60歳以上)の腸内ウイルス叢と比較して、百寿者は、クロストリジウムに関連するウイルスなど、これまで未記載のウイルス属を含むより多様なウイルス叢を有していた。また、より高い溶菌活性への集団シフトも観察された。最後に、ファージがコードする細菌の生理機能に影響を与える補助機能について調べたところ、硫酸代謝経路の主要なステップをサポートする遺伝子の濃縮が明らかになった。百寿菌のファージと細菌は、メチオニンをホモシステインに、硫酸塩を硫化物に、タウリンを硫化物に変換する可能性が増大していた。百寿者の微生物による硫化水素の代謝産生が多いことは、ひいては粘膜の完全性と病原菌に対する抵抗性を支えているのかもしれない。

Nature Microbiology 2023; 8: 1064–1078 DOI: 10.1038/s41564-023-01370-6

シミュレーテッドアニーリングに基づくイジングマシンと量子アニーラーを用いたハイブリッド最適化法

イジングマシンは、組合せ最適化問題の高速・高精度ソルバーとして開発されている。イジングマシンはその内部アルゴリズムによって分類され、シミュレーテッドアニーリングに基づくイジングマシン(非量子型イジングマシン)と量子アニーリングに基づくイジングマシン(量子アニーラー)がその例として挙げられる。ここでは、非量子型イジングマシンを用いて量子アニーラーの性能を向上させ、両者の長所を生かしたハイブリッド最適化手法の性能を調べた。この手法では、まず非量子アニーリングイジングマシンが前処理として元のイジングモデルを複数回解く。その後、スピン固定によって生成された縮小サブイジングモデルを量子アニーラによって解く。非量子型イジングマシンとしてシミュレーテッドアニーリング(SA)を、量子アニーラーとしてD-Wave Advantageを用いたシミュレーションにより、本手法の性能を評価した。さらに、ハイブリッド最適化手法のパラメータ依存性を調べた。その結果、提案手法は、全結合ランダムIsingモデルにおいて、前処理のSAや量子アニーラーを単独で用いた場合の計算性能を超えることを明らかにした。

J. Phys. Soc. Jpn. 92, 124002 (2023) DOI: 10.7566/JPSJ.92.124002