WPI拠点で未来をつくる研究者に会いたい!タンパク質の働きを解明する

タンパク質の働きを解明する

PROFILE:古寺哲幸さん
1978年生まれ。金沢大学理学部物理学科を卒業後、同大学の自然科学研究科の修士課程、博士課程を修了。日本学術振興会賞(2018年)、日本生物物理学学会若手奨励賞(13年)など受賞も多い。

何の研究をしているの?

私たちの体は小さな細胞の集合体で、その数は推定60兆個。しかも一つの細胞には、さまざまな種類のタンパク質分子が約30億個ずつ入っている。タンパク質分子はナノメートル(※)サイズととても小さく、その働きは謎に包まれている。しかし金沢大学のチームは、タンパク質分子の形だけでなく動きまでビデオ観察できる「高速原子間力顕微鏡(高速AFM)」を開発。それを使ってタンパク質分子の働きを調べているのだ。
※1ナノメートルは10億分の1メートル。

  • ごくごく細い針でサンプルの表面を素早くなぞることで、サンプルのとても細かな形と動きの両方を確認できる特殊な顕微鏡。
  • 10億分の1メートルの世界がパソコン画面に映し出される

何の役に立つの?

私たちの健康は、タンパク質分子が一つひとつきちんと働くことで成り立っている。だからタンパク質分子の研究が進めば、必要な栄養を上手に体に取り込む方法がわかったり、病気の原因が解明できたり、治療薬が開発されたりするはずだ。またタンパク質分子は、世の中のさまざまな製品に利用されている。研究が進むことで、さらに便利で、しかも環境に優しい素材や機械、製品が誕生するだろう。

石川県金沢市金沢大学

ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)に行ってきたよ!

古寺さんの研究室。居心地がよく、休日に来ることもあるそう

  • 古寺さんが3Dプリンターで自作したタンパク質の模型
  • WPI-NanoLSIは、病気や老化などまだ謎の多い生命現象のしくみについて、「ナノレベル」で解明することを目指す研究所。独自の顕微鏡技術などによって、直接「観る」ことを得意としているよ
  • 異分野の研究者が交流するラウンジは、金沢の歴史・文化をイメージした空間。金沢ゆかりの梅の花のデザインも
  • 実験室では、生き物のしくみを調べる実験がたくさん行われているよ
  • 研究棟には生物系と化学系それぞれ、広い共有実験室がある

研究っておもしろい!古寺哲幸さんのストーリー

研究は挑戦と失敗の繰り返し。それでもくじけない心は、子どものころの遊びの中できたえられたんだって。

どんな子ども時代だった?

小学校4年生のころ。生き物を捕まえるための道具を自作していたことが、今の顕微鏡づくりにも生かされている

虫捕りと魚釣りとゲーム(ファミコン)が大好きな普通の男の子。昆虫や恐竜の図鑑が大好きで、当時はページ全部が思い浮かべられるほどでした。母に「文章を読みなさい」と言われましたが、小説が苦手。だけど、ファーブル、エジソン、野口英世など科学者の伝記は好きでした。彼らはみんな「そんなの無理だよ」と笑われ、失敗を繰り返しても研究をあきらめなかった。それを見習い、虫捕りや魚釣りでも「もっといい方法があるのでは?」と考える子どもでした。

研究で感動した瞬間は?

高速AFMを使って、まだ誰も見たことのないタンパク質の動きが確認できたときです。体の中で荷物を運ぶ役割をする「ミオシン」というタンパク質が、細いレールのようなタンパク質の上を2本足でトコトコ歩くように動く姿が見えたのです。うれしくてガッツポーズしました。目には見えない小さな小さな世界、その一部をのぞかせてもらえるという感動があるから、この研究はやめられないのです。

これからの夢は?

高速AFMは、タンパク質が働く姿を撮影できるユニークな顕微鏡です。金沢大学発の高速AFMは今、世界中の研究者が使い、さまざまなタンパク質が上手に働いているしくみを解き明かすことに役立っています。とはいえ、今の顕微鏡の性能では観察できないくらい速く動くタンパク質もまだまだいます。僕らはさらに高性能の顕微鏡をつくって、もっとたくさんのタンパク質の働くしくみを深く理解したいです。顕微鏡の開発とタンパク質の研究をともに進めていきたいですね。


取材・文/神 素子、上浪春海 写真/松永卓也(写真映像部) イラスト/楠美マユラ
企画・制作/AERA dot. ADセクション


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