WPI拠点で未来をつくる研究者に会いたい!アトピーの予防法や治療法を探る

アトピーの予防法や治療法を探る

PROFILE:松岡悠美さん
2003年、山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。千葉大学大学院博士課程修了。09年、米国ミシガン大学に留学。13年に帰国し、千葉大学助教などを経て、20年に免疫学フロンティア研究センターへ。外来患者を診察する皮膚科の医師を務めながら、研究者として活動している。

何の研究をしているの?

アトピー性皮膚炎は、遺伝的な体質(免疫細胞※の関わるアレルギー体質や皮膚の乾燥)に、環境(細菌や衛生環境)が影響して発症する。これらのうち、松岡さんは細菌に着目し、皮膚の表面にもともとすんでいる無害な細菌と、皮膚の炎症を引き起こす有害な細菌の関わりを解き明かす研究をしている。この研究を通して、アトピー性皮膚炎の薬を使わなくても発症しないようにする予防法や治療法を見つけ出そうとしている。

※体をウイルスや細菌、がんなどから守るはたらきにかかわる細胞。役割の異なるさまざまな種類の免疫細胞がある。

何の役に立つの?

子どもに多く見られるアトピー性皮膚炎は、よく効く薬の登場によって症状を抑えられるようになった。しかし、薬をやめると症状はぶり返してしまう。この薬は値段が高いため使えない人もいる。研究が進んで予防法や薬を使わない完治に結びつく治療法が確立されれば、誰もがこの皮膚炎に苦しまなくてすむようになる。アトピー性皮膚炎に関わる細菌は、ほかの病気も引き起こすことがわかっているので、その予防や治療に役立つことも期待できる。

大阪府吹田市大阪大学

免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)に行ってきたよ!

松岡さんは週に1、2日、午後の時間帯に皮膚科の先生として患者さんを診察している

  • WPI-IFReCは免疫学の分野で世界屈指の研究成果を誇る研究センター。免疫に関わる病気や治療法を研究し、社会に役立つことを目標にしているよ
  • 細胞の分析をするためのセルソーターや、高速でDNAを読み取る装置など、先端的な機器が充実している
  • 生きた動物の体内を観察できる高性能のMRI装置
  • 生体組織を高倍率で観察するための透過型電子顕微鏡
  • 病気のモデル動物をつくるためには、高度な遺伝子操作が必須

研究っておもしろい!松岡悠美さんのストーリー

子ども時代は自然が大好きな女の子。
その一方、松岡さん自身もアトピーなど皮膚炎に悩まされていたんだって!

どんな子ども時代だった?

8歳のころ、セミを洋服につけて遊んでいた

子どものころ、私自身がひどいアトピー性皮膚炎で、ずっと大学病院に通院していました。その一方、自然の中で虫を捕ったり植物を観察したりするのが大好きでした。とくにセミが好きで、捕ってきて家の中に放したり飼ったりしていました。研究者になりたいという思いは小学生のころからありました。動物や植物にも興味があったので、大学を選ぶときは医学部、農学部、獣医学部、理学部のどこへ進もうかと悩み、最終的に医学部に進みました。

この研究の魅力は?

科学の研究は、これまで誰も知らなかった真実を見つけ出すことだといえます。その真実には簡単にはたどりつけません。何年もかけて地道にサンプルを集めたり、動物や培養(※)した細胞でテストしたりして、苦労の末に誰も知らなかった真実が見えてくるのです。そのときがいちばんうれしいし、その感動を味わえるのが研究の醍醐味です。また医学の研究は、将来、苦しんでいる患者さんを救うことができるのも大きな魅力です。
※ガラスの器の中などで人工的に育てること。

これからの夢は?

薬を使わなくてもアトピー性皮膚炎が発症しなくなるような治療を実現することです。この夢は多くの研究者の力で可能になることですが、あと10年ぐらいの間にかなうのではないかと思っています。このセンターで教授としての夢は、次の世代の研究者を育てていくこと。私がこれまでの研究生活の中で尊敬する先生方から教わり、経験を通して身につけてきたことを若い人たちにも伝えていきたいです。


取材・文/上浪春海 写真/松永卓也(写真映像部) イラスト/楠美マユラ
企画・制作/AERA dot. ADセクション


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