カーボンニュートラル・エネルギー社会実現への道筋
研究の目標
低炭素社会実現のための基礎科学の創出
WPI-I2CNERの研究目標は、光触媒を利用した水素製造、耐水素材料、次世代燃料電池、化学反応・触媒作用の「グリーン化」、CO2の分離・転換、CO2地中貯留(隔離)、エネルギーアナリシスなどの理解を深め、基礎科学を創出することです。戦略的な推進に際しては、化学、物理、材料科学、熱流体力学、地球科学、生物模倣学、さらには経済学や政策決定にいたるまで、様々な分野における融合研究や学際的研究が不可欠です。WPI-I2CNERの研究は非常に幅広く、水素、酸素及びCO2と物質とのインターフェイスで起こる現象及びその基本的メカニズムについて、多様な空間スケール(原子から、分子、結晶、地層まで)と時間スケールにまたがる研究をしています。
拠点長:石原 達己
(拠点長からのメッセージ)
カーボンニュートラル社会への移行は世界的に取り組まないといけない重要な課題となっています。WPI-I2CNERはカーボンニュートラル社会の実現に必要な革新的科学の開発と分野融合による新しい学問領域の開拓により、この移行への貢献を目指しています。一方で、現在、エネルギー価格が高騰しており、豊かな生活を支えるエネルギーの確保もまた、世界的に重要な課題です。WPI-I2CNERは再生可能エネルギーを水素またはCO2から得た炭化水素へ変換し利用する社会システムを提案し、カーボンニュートラル社会の構築に寄与したいと考えています。
(プロフィール)
1986年に九州大学総合理工学研究科修士課程修了後、同大助手。工学博士(九州大学)。大分大学工学部講師、助教授を経て2003年から九州大学工学研究院教授に就任(現在まで)、2013年WPI-I2CNER副所長に就任。2023年4月からWPI-I2CNER所長を務める。主な受賞に触媒学会賞(学術部門)、Daiwa Adrian Prize 等。専門は無機電気化学であり、燃料電池や電解に用いることができる高酸素イオン伝導体の新材料を100年ぶりに発見した。
特徴・研究成果
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校との連携/融合研究領域の創出
WPI-I2CNERは、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)にサテライトを設置し、戦略的に連携を進める点において他に類のないWPI拠点です。九州大学は世界に誇る最先端の水素研究環境を備えており、伊都キャンパスで行われる科学的交流や議論は、国際社会に強い影響力をもたらしています。また、WPI-I2CNERは、様々な国の科学分野で活躍する優れた研究者から構成されています。WPI-I2CNERの特徴は、若手研究者による独自の研究プログラムの発展をサポートし、彼らが海外の研究機関と活発な共同研究を行っていることにあります。WPI-I2CNERの成功のためには、研究者の質こそが最も重要であると考えます。低炭素社会への移行は、世界規模で取り組むべき課題であり、国際社会の中で人的資源を有効活用することが求められています。
またWPI-I2CNERでは、ボトムアップ研究のためのユニークな機会を提供し、新たな研究の方向性の創出を積極的に支援しています。毎年開催するシンポジウムは、異分野間の融合を追求し、分野横断的な研究方針を育み、研究計画を策定するための議論を交わす好機として活用されています。例えば、2016年と2017年のシンポジウムがもたらした重要な成果から、計算科学と応用数学が研究ポートフォリオに組み込まれました。
カバーする研究分野の多様性により、部門の垣根を越えたコラボレーションが生まれると同時に異分野融合研究が促進され、必要に応じて様々な分野の科学者やエンジニアによる研究プロジェクトが結成されます。
カーボン担体のポリマーラッピングによる新しい電極触媒の設計
藤ヶ谷教授らは、高分子電解質燃料電池(PEFC)用の電極触媒において、カーボン担体を触媒担持前にポリマーで被覆する新しい電極触媒構造を開発しました。本手法の強力な利点の一つは、カーボンナノチューブのような高結晶性カーボンに、白金に代表される触媒ナノ粒子を均等かつ均一に担持できるため、燃料電池の高耐久性が実現できることです。(Advantage 1)
チームはこのアプローチによって、白金 利用率が向上することを見出し、高活性化も実現しています。(Advantage 2)
藤ヶ谷剛彦(2015 年「Scientific Reports」、2019年「Electrochimica Acta」誌に掲載)
世界最高の CO2 透過度を持つ分離ナノ膜の創製と大気からのCO2直接回収への挑戦
地球温暖化ガスであるCO2回収は地球温暖化問題解決に必須です。藤川教授らは、極めて薄いCO2分離ナノ膜(厚さ:34nm)を開発し、従来の分離膜よりも圧倒的に高いCO2透過度(約20倍)を実現しました。CO2のネガティブエミッションに向け、この分離ナノ膜による「大気からのCO2直接回収」が次なる課題です。
CO2分離ナノ膜とそのガス分離性能:(a)自立型で厚さ150nmのCO2分離ナノ膜(オレンジ色のOリングはフレーム);(b)分離膜の厚みとガス透過性及びCO2/N2選択性の関係。CO(青の四角形)、窒素(緑2の三角形)の透過性、およびCO2と窒素の選択性(赤の×字)。
藤川茂紀(2019 年「Chemistry Letters」誌に掲載)
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