WPIの研究を支える人たちREADING

手続、生活、メンタルという広い範囲で外国人研究者に「安心」を提供する姿勢を。(下)

外国人研究者は皆、慣れない土地に着任して少しずつ日本のシステムや文化に慣れて生活していきます。サポートする側としては、彼らの戸惑いを受け入れて、困っていることをひとつずつクリアし、安心を与えていくことが必要となります。大阪大学IFReCの小川真智子さん・石井由美子さんは、外国人研究者のメンタル面でのサポートも含め、「安心」を提供するために、日々、様々な業務を行なっています。

【取材・文:清水修、写真撮影:山内城司】

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC)

【 お子さんの問題、病院の問題などにも対応する家族サポート 】

石井 生活サポートにおいては、外国人研究者の「家族へのサポート」も多いですね。お子さんに関連した相談も多いです。たとえば、お子さんが英語対応のない保育園に通っている場合、保護者への連絡ノートなどはすべて日本語なわけです。その内容を訳して外国人研究者家族に伝えたりします。「明日、何々をお子さんに持たせてください」といった必要事項は知る必要がありますから。それから、特に大変なのは「病院」の問題。「お子さんが夜中にとても具合が悪くなった。病院に連れて行きたい」という連絡が携帯に入ることが多いんです。しかし、この辺り、北摂の5つの自治体(吹田市、箕面市、茨木市、池田市、豊能町)は小児科医の数がとても少ないので「豊能広域こども急病センター」というところまで連れていかなければなりません。ですので、このセンターに電話をして「こういう名前の日本語が話せない外国人がそちらに行きます。お子さんの症状はこうです」と説明をしておいて、外国人研究者家族には私の携帯電話番号を教えておきます。「センターに到着して、困ったら私に電話をして」ということで。そのような電話サポートで事足りると気づくまでには、過去に実際に家族をセンターに連れて行ったことが何度もありました。

小川 今、石井さんが話してくれたことは夜中の緊急案件なので特に大変なわけですが、昼間、「病院に行きたい」と相談されて病院を探す時もけっこう大変ですね。日本語が話せない外国人研究者やその家族を診てもらうために「英語が話せる医師がいる病院」を探すわけですが、「うちでは英語対応できません」と断られてしまうことが多いんです。

石井 こういう仕事をしていると、「外国人を通して日本が見える」という時があるんですよね。普段はあまり気に留めていなかったけれど、「日本語ができないと、こんなに困ることが多いんだ」と気づかされます。

【 いざという時に必要となる災害時のサポート 】

石井 この数年、大阪でも災害が多く、2018年にも西日本豪雨、台風21号、大阪北部地震など、いくつもの災害がありました。私たちも災害時の外国人研究者サポートを初めて経験しました。大阪北部地震の時、箕面では電気や水道が止まったのですが、IFReCでは、外国人研究者を連れて避難所に水をもらいに行ったりしました。避難所では英語の表示などがちゃんとあって助かりましたが、外国人研究者たちは行政の災害ページに戸惑って相談してきました。英語版は機械翻訳なので、あまり役に立たないかんじだったんですね。

小川 外国人の方は地震を経験したことがない方が多いので、皆、恐怖を感じて避難所に詰めかけます。その中には阪大の関係者もいれば、そうでない方もいます。しかし、大体は行政から阪大に「外国人のコントロールをしてほしい」という連絡が来て対応しているようです。災害時などは大学の中の人と外の人が同様の行動を取るので、そのあたりの対応はなかなか大変ですよね。

石井 IFReCがあるこのキャンパス(吹田キャンパス)は吹田、箕面、茨木の3市のちょうど真ん中にあるんですよ。外国人研究者たちも3市に分かれて住んでいる状態なんですが、それぞれ別の自治体なので問い合わせ先も人によって違いますし、ある問題が発生したら対応も市によって違うわけです。外国人研究者サポートをする上でも、いろいろと込み入った状態となります。

【 「文化の違い」から生じる問題をメンタル面も含めて対応 】

小川 雇用されて着任した外国人研究者の中には日本に関する予備知識がなくて来日される方も多いです。そういう方は「文化の違い」に戸惑うことになるので、そういう面でもできる限りサポートをしています。まず、来日してから「日本がこんなに英語が通じないとは思っていなかった」という方がけっこう多いですね。そんな方々のために2012年からプロの日本語教師にお願いして日本語教室を開講しています。特に初心者クラスは継続しなければいけないと思っています。

石井 「文化の違い」という意味では、食事の問題も大きいですね。IFReCにはイスラム教徒の方もいるので、シンポジウムなどの際には豚肉を使っていない食事を用意することもあります。クリスマスパーティも特定の宗教の行事になってしまうのでIFReCとして開催することはありません。

小川 「文化の違い」などの影響もあって、来日当初は精神的に辛くなってしまう方もけっこう多いようです。ホームシックにかかる外国人研究者もいます。そういう精神的な悩み相談は、着任時に最初に対応してくれたスタッフに相談したいと思う方が多いらしく、個人的な相談もよく受けます。精神的な悩み相談は、さすがに業務のひとつではないので、私個人として相談を受けているかんじですね。当然、業務終了後にラウンジなどでゆったりとくつろぎながらお話をうかがいます。もちろん、精神的な悩み相談を受けることは業務外ですのでお断りすることもできると思いますが、やはり人情として「それはちょっと……」とはなかなか言いづらいものがあります。だから、外国人研究者の着任時にサポートをしたら、当然、その後の精神的な悩み相談も込みで対応するつもりで担当することにしています。

【 これから外国人研究者サポートを始める方へ 】

小川 これから外国人研究者サポートを始める方へのアドバイスとしては……外国人研究者も当然、人それぞれ個性がありますから、その個性を早く掴み取ることが大切な気がします。相手の行動を予測できれば、先読みして対応しておくこともできます。相手の満足を得るためにもそういう姿勢が大切なのではないかと思いますね。

石井 私からのアドバイスとしては……さきほど言ったように、この仕事は「良くも悪くも日本が見える仕事」です。そういう意味ではサポートする側も「文化の違い」を知らされます。外国人は日本人よりもストレートに主張しますし、議論になることや揉めることにもあまり抵抗がありません。ですから、その違いを常に冷静に認識しつつ、外国人研究者サポートに少しずつ慣れていってほしいと思っています。


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