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スタッフ全員体制で満足度の高い支援を実現(上)

物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)

 研究事業は、研究者だけでは成り立たない。表舞台で活躍する研究者を支える、ラボテクニシャンや支援スタッフが必要不可欠だ。
 特に「第一線の研究者が集まる世界に開かれた研究拠点」を目指すWPI研究拠点では、国際的な研究環境の土台を作る支援スタッフが大きな役割を果たす。多くのWPI研究拠点が、事務部門の中に、外国人研究者支援の専門部署を設けているのはそのためである。
 ところが、今回紹介する国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)はそのような専門部署を設置していない。その代わり、事務部門業務に携わる全ての支援スタッフが、予算管理、勤怠管理、書類整理など、さまざまな事務作業支援・研究業務支援を通じて外国人研究者も支援している。日本人と外国人で研究者を区別することなく一括して支援業務を行っているのである。
 なぜMANAは、外国人研究者支援の特別な部署を設けていないのか。MANAの主任研究者(PI)で、副拠点長、事務部門長も務める中山知信さんは、その狙いを次のように語る。

「こちらでは総務、経理などと業務で事務の支援スタッフを分けていません。支援スタッフは、複数の研究グループを支援する『秘書』の役割を担っています。業務割りではなく、研究グループ割りなのです。外国人受け入れ業務を含む、研究グループの中で生じる、一切合切の事務的な仕事を一人の支援スタッフが行う態勢を敷いています。その狙いは情報共有です」

 各研究グループを担当する支援スタッフたちは、普段、研究棟の同じ事務室に机を並べて仕事をしている。そのため、自分が担当するグループで何か問題が起きても、別のグループの担当者に相談しやすい。わざわざ相談するまでもないような事例でも、支援スタッフ同士集まれば、雑談の中で自然に共有することができる。

「海外から学生を集めて研修を開くと、中国人は中国人で、インド人はインド人で、日本人は日本人で、という具合に、同じ国の学生同士が集まってしまうことがよくあります。同じ国の人のほうが話しやすいのは当然です。しかし、国の違いを越えて議論し、情報共有をしなければ、研究テーマを深めたり、新しいアイデアにたどり着いたりするのはなかなかないものです。専門組織を縦割り(業務割)で作ると、同じことが起こってしまいがちだと思います」(中山さん)


 それではMANAにおける外国人研究者の支援はどのように行われているのだろうか。複数のグループの研究者、研究員に対する秘書業務に携わる伊藤さん、塚本さん、全般的な業務に携わるジョンソンさんにお話をうかがった。

左から、塚本さん、ジョンソンさん、伊藤さん。写真=緑慎也撮影

【 もっと早く知らせて! 】

 外国人受け入れ業務は、ビザ(査証)や住宅の手配からはじまる。だが、伊藤さん、塚本さんによれば、来日手続きの時点からつまずくことがしばしばあるという。
 その最大の理由は、MANAの研究者から「海外から研究員が来る」と知らされるタイミングが遅いことだと2人は指摘する。

伊藤 ビザ取得に必要な手続きは本人の国籍と訪問国によって変わります。だから、いつ誰がどこから来るのか私たちに知らされるタイミングは早ければ早いほどいい。来日の半年前に知らせてもらえば丁寧な対応が可能なのですが、だいたいギリギリで……。

塚本 来日予定日の1カ月前に連絡してくる人もいますね。それだと間に合わないので、「無理です」と来日予定日を後ろにずらしてもらいます。せめて3カ月前には知らせてほしいですね。

——「MANAに行きたい」と言われて、MANAの研究者が「じゃあ、来月から来れば」といった感じで、気楽に応じているのでしょうね。

塚本 2、3週間あれば大丈夫と思われているかもしれません(笑)。1カ月を切ると、やはり難しいです。大学院生だと、留学ビザが取れなくても、観光ビザで来てしまう人がたまにいます。とりあえず日本に来てからビザを変更すればいいと考えて。でも、後で困ったことになります。

——MANAの研究者に、ビザの申請手続きについて理解してもらう機会を作っては?

伊藤 一口にビザと言っても、海外から日本に来るのが大学院生か、ポスドクか、研修生か、国費留学生か、短期雇用者かなどによっても、ビザの種類が変わるので、とても説明しきれません。日本に来るかもしれないとわかったら、メールのCCに私たちも加えてもらえるとありがたいです。日本に来るかどうかはっきりしてから知らせた方がいいと気遣って下さっているのかもしれませんが、未確定でも早めに知らせていただいた方が準備できるので。

【 厳しい住宅問題 】
JST二の宮ハウスで近隣住民も参加して行われた2019年の夏祭り。写真=JST二の宮ハウス提供

 ビザとともに、居住場所の確保も、外国人受け入れ業務の初期の関門の一つだ。こちらも時間との勝負だが、実はビザよりも厳しい戦いになる場合があるらしい。つくばには、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)が運営する外国人研究者向けの宿舎、JST 二の宮ハウスとJST 竹園ハウス、がある。

 JST二の宮ハウスがシングルルーム(34㎡) 104室、ダブルルーム(63㎡)71室、JST竹園ハウスはシングルルーム(36㎡)24室、ダブルルーム(63㎡)6室(いずれも1LDK)、ファミリールーム(93㎡) (2LDK)を備えている。「二の宮ハウス、竹園ハウスに空きがあればそこに入ってもらいます。しかしどちらもいつも満室で、何カ月も前から 予約が入っていて、なかなか入居できないんです」(伊藤さん)

——なぜJST二の宮ハウスやJST竹園ハウスが人気なのですか?

JST二の宮ハウスの交流ルームでは定期的に講演会が行われる。写真=JST二の宮ハウス提供)

伊藤 どちらも日中はサポートスタッフがいて、居住者に英語で対応してくれます。管理員も夜間・休日も 常駐している 。ここに入居してくれれば安心です。外国人研究者の場合、21日以上居住する場合は入居の半年前から、20日以下居住する場合は入居の2カ月前から予約できます。だから、海外から日本に来るのがたとえ半年前でも可能性が出てきた時点で教えてくれれば、仮予約ができます。
 その他、週2 回、3カ月コースの日本語講座も年4回 開設している。
 つくば地区にあるさまざまな研究機関に所属する外国人研究者が利用するが、入居者の半分以上は、MANAを立ち上げた国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)所属の研究者であるという。

【 ウィークリーマンションでのトラブル 】

 JST二の宮ハウス、JST竹園ハウスに入れない場合は、つくば地区にあるウィークリーマンションを探すことになる。ところがウィークリーマンションに外国人研究者が住むとトラブルが発生しやすいという。

塚本 JST二の宮ハウスなどと違って、ウィークリーマンションの管理者の方々は英語で外国人研究者とやりとりしてくれないので、何か問題が起こると私たちに問い合わせが来ます。「外国人で、NIMSに通っているようだ」とNIMSに連絡が来て、実際、MANAの研究員だと判明することがあります。以前、「部屋に土足で上がっていて、床が汚れている」とクレームがありました。靴を脱ぐかどうかわからなくて、そのまま土足で上がってしまったようです。

伊藤 ゴミの分別ができていない、指定日と異なる日に出しているというクレームもよくありますね。

塚本 そういう場合は、私たちがマンションまで行って、本人にゴミの出し方を伝えます。

伊藤 排水が詰まったとマンションの管理者から連絡が来たこともあります。修理をするから居住者に一時的に出てほしいというんです。他のウィークリーマンションもいっぱいですぐには入れないのでホテルに行くことになりました。荷物を運んでほしいと管理者に言いましたが、「これを運ぶのは自分の仕事ではない」というので、「排水が詰まったのはマンション側の責任でしょう」と返しました。こういった交渉を外国人が日本語で行うのは難しいので、私たちが間に立つことになりますね。

【 事務部門一丸で支援 】

  このように外国人研究者の支援業務は多岐にわたるが、伊藤さんも塚本さんもそれぞれ受け持つグループの中で生じた問題については、事務部門で共有し、対策を講じる。  MANAの事務部門に、外国人研究者受け入れの専門家はいないが、その代わりに、事務部門の全員がそれぞれの経験を共有し、いわば集合知によって、国際的な研究環境の土台作りに取り組んでいるのである。(後編に続く)

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【参考書籍】
物質・材料研究機構(NIMS)著 『こちら若手国際研究拠点』(日経BP、2008年)
MANAを擁するNIMSは、2003年に若手国際研究拠点(ICYS)を立ち上げ、国際的な研究環境を築いた実績を持つ。そのノウハウをふんだんに盛り込んでいるのが本書。2011年には本書の要点を英語化した『The Challenging Daily Life or how I came to love Japanese culture』(文化工房)も出版された。